渦の中_3【下書き】

 この映画は外したかな。登場人物の誰にも感情移入できずにいた僕は心の中で舌打ちした。インタビュアーの準備不足とバレリーナの協調性の無さが奏でる音を、僕は不協和音と受け取ったのだ。これが面白いと感じる人はいるのかね、と心の中で毒づきながら、途中でもう寝てしまおうかと思案していると、前方から小さな声が聞こえた。
「くそ、すまんねぇな。」
僕はスクリーンを見たまま、心の中で激しく同意した。
 すると少女の声が聞こえた瞬間から、奇妙なことが起きた。まず、スクリーンの映像がゆがみ始めた。ブラックコーヒーに入れたミルクをかき混ぜているときのように、スクリーンの映像がぐるぐると渦を描き始めたのだ。インタビュアー、バレリーナ、そして彼らの背景であるダンススタジオも、画面上のすべてが渦の中に飲み込まれていく。
 僕は心底驚いてスクリーンに釘付けになった。ぐるぐると回る画面に気分が悪くなりながらも、目が逸らせなかった。そうしている内に、スクリーンの左端に金魚の着ぐるみを着たカエルが表れた。金魚の装いのカエルは、渦に巻き込まれてしまい、ぐるぐるとスクリーンを回る。風呂に溜めた水を抜くときに一緒に回るおもちゃのアヒルのように、突然現れた金魚の着ぐるみを着たカエルは一定方向に回りながら渦の中心に向かっていく。とうとう、そのカエルは渦の中心まで流されてきた。そうして、風呂に溜めた水を抜き終わる時のように、ごぼっと音を立てて、金魚の装いをしたカエルはスクリーンの中央に飲み込まれ、消えてしまった。