老妓抄

やる気の出ないとき
そんなときは、何でもいいから苦労の種を見付けるんだね。苦労も
ほどほどの分量にゃ持ち合せているもんだよ

仕事であれ、男女の間柄であれ、混り気のない没頭した一途な姿を見たいと思う。
 私はそういうものを身近に見て、素直に死にたいと思う。
「何も急いだり、焦ったりすることはいらないから、仕事なり恋なり、無駄をせず、一揆で心残りないものを射止めて欲しい」と云った。
 柚木は「そんな純粋なことは今どき出来もしなけりゃ、在るものでもない」と磊落に笑った。
老妓も笑って
「いつの時代だって、心懸けなきゃ滅多にないさ。だから、ゆっくり構えて、まあ、好きなら麦とろでも食べて、運の籤の性質をよく見定めなさいというのさ。幸い体がいいからね。根気も続きそうだ」
 車が迎えに来て、老妓は出て行った。

年々にわが悲しみは深くして
  いよよ華やぐいのちなりけり