男が見た夢_11

 鬼が絶命したことを見届けるまで、男は弓を鬼に向けて構えていた。息が絶えたことを確信すると、二十歩ほど後ろに下がり木を見上げて何事か言い始めていた。すると、木の上からひょろっと背の高い男が降りできた。降りて来た男は、弓を持った男に話しかける。
「若様、いかが致しましょう。」
「この先に、流れ者や鬼が作った集落がある。この鬼の帰りが無いことに気付かれる前にこの場を去ろう。」
彼らの話す言葉は異国のものだった。作造には、男たちの会話の声は聞こえはするが、その意味はさっぱり分からなかった。作造は、彼らの意図が分からない以上、彼らを頼るのは得策ではないと判断した。彼はかっぱらい業で培ってきた勘を頼りに、一目散に山を駆け下りていった。
「なかなかの健脚ですね。」駆け下りる作造の姿を見ながら背の高い男が言った。「女にしては、がつくがな。」そういうと、若と呼ばれた男は、作造の後を追いかけた。
先ほど鬼に追いかけられた時と同じように、作造は自分の脚が鈍っていることを再度感じた。どうにも上手く脚が持ち上がらない。越えられると思った茂みに脚を何度も捕られた。思うように進まない脚に苛立っていると、足音が後ろから追いかけて来た。みるみるうちに、足音は近づいてき、作造の横をひょいと影が横切った。作造の前に若い男が立ちはだかった。かっぱらいで鍛えた脚の見せ所と、作造は身をよじって男を避けるように一歩踏み出した。けれど、作造の腰はまたしても、若い男に捕らえられてしまった。両手で抱えるようにして、作造を持ち上げた若い男は、後ろからついてきたもう一人の男に声を掛けると、そのまま山を駆け下りていった。