手_4

 村人たちの話を聞いた後、男は領主一行が行き来したであろう道の方を見つめ、しばらく黙っていた。「このまま貧しい暮らしを続けて、母親のように早死にしてしまうよりは良かったのかもしれないな。」口の端を歪めて男は言った。
 翌日、男の元に身なりの良い者が訪ねて来た。その者は、男の家に入ることもなく、土間の戸口に立ったまま、自分は領主の使いであると言った。そして「娘を領主様の側室として召し上げる由、有難く思え」云々口上を述べた。土間に一歩だけ踏み入ると、男に一抱えの米を押し付けるように渡した。用事が済むと使いの者は、さっさと屋敷へ帰ってしまった。土間に一人残された男は、米の袋を抱えたまましばらく立ち尽くしていた。その晩、男は一握りの米を炊いた。真っ白な飯を、妻の墓前に供え、娘の影膳をしつらた。男は、三口ばかり残った米をゆっくり間で食べた。