手_5【下書き】

 町に男が住んでいた。男は薬師を生業としていた。山へ入り、草花を摘み、刻んで煎じて薬をつくる。男はなかなかに口上が上手く、男の口車に乗せて薬はよく売れた。軽い病などたちどころに治ってしまうからだった。治った、治った、あそこの薬で治った、と町の者が口々に言うので、男の薬師としての評判は上々、患者は万来であった。しまいには、あの薬師に治せぬ病などないと噂される程であった。薬師の方も否定しなかったので、どんな病も治せる名師として町中で評判となった。
 ある晩春の夕暮れ、ぬるい風を伴って一人の身なりのいい男がこの薬師のもとを訪ねた。身なりのいい男はさるお屋敷の使用人だと名乗った。口外無用と念押しした後、自分は領主の屋敷の使用人であると告げた。