お月さま旅に出る_【切ったエピソード】

夜の月は沢山の星に囲まれて、たいそう楽しく暮らしています。噂話が大好きな赤い星が月に話しかけました。「お月さま、知ってるかしら?さそり座のアンタレスとこと座のベガが駆け落ちをしたそうよ。」「ええ!それは、一大事じゃないか。夏の大三角形はどうなるんだい?」月の驚く顔を満足そうに眺めながら、赤い星は続けました。「わし座のアルタイルが怒ってね、周りの星々を訪ね回って、それはそれは大変な騒ぎになったのよ。」「それでね、様子を見かねた、はくちょう座のデネブが、怒っているアルタイルの代わりに探し回ったのよ。」「それで、どうなったんだい?」赤い星はもったいぶって話を続けます。「二人はペガスス座の裏で見つかって、連れ戻されてしまったそうよ。」「それから、二人ともはくちょう座のデネブにこっぴどくしかられたんですって。」
 「それにしても、どうして二人は駆け落ちなんかろうね。こと座のベガは、わし座のアルタイルと仲が良んじゃなかったかい?」月の問いに、赤い星は首を振りました。「どうやらあの二人、最近けんかが絶えなかったそうよ。どうも、天の川で獲った魚の量の分配のことで、もめたらしいのよ。」「仲が良くても長く一緒にいると、上手くいかないことも出てくるの。それは珍しいことではないのよ。」最後の赤い星の言葉は、月にはよく分かりませんでしたが、一応深くうなずき「ともかく、二人ともいつもの場所に帰ったならばよかった。」と言いました。赤い星もうなずき返しました。そうやって、夜通し星たちと話をするのが月の日課でした。