末っ子ねずみ、末吉の話 1

 ねずみと言いましても、近頃ではいろいろな者がおります。まず、住むところが様々です。森の中、街の中、そして人の家の中等々。彼らがどのように暮らしているのか、一つ一つの場所でどのように暮らしているのか見ていきましょう。
 昨今の技術革新は目を見張るものがあります。ロボット掃除機や自動運転の車、何でも答えてくれる携帯電話の機能等、生活を便利にした技術は上げればきりがありません。人間の目に入ることこそありませんが、ねずみの世の中でも革新はなされております。特に、街で暮らすねずみ達は、人間と共に進歩を遂げてきました。地面を掘り返して下水道が整備されれば、そそくさとそちらに引越し、街灯が明々と灯るようになれば、影を求めて建物の中へと忍び込みます。生活の変化に合わせて、様々な職業が生まれました。都会ではなかなか集め難い巣作りの材料を集めてくる便利屋、路地の抜け道や建物の裏道を教える情報屋などが新しく生業を始めました。
 また、毎日、燃えるゴミが出る繁華街では、ねずみの種類ごとにきちんと組合を作っており、生ごみは組合の管理で均等に配分されています。以前は、ねずみ同士で血で血を洗うような壮絶な戦いを繰り返しておりました。しかし、ねずみ達が争いに気を取られている間に、カラスが生ごみを持ち去ってしまうようになったのです。そこで、ねずみ達は争いを止め、話し合いによって生ごみの分配量を決めました。分配量が決まっていますから、カラスに横取りする間を与えずに、ねずみ達は生ごみを手に入れることができるようになりました。
 次に、森で暮らすねずみの様子を見ていきましょう。森の中で暮らす野ねずみさんなんて、かわいらしいと呑気にお思いでしょう。しかし、もともと森で暮らしていた地元ねずみと、都会の街で暮らしていたけれど引っ越してきた移住ねずみとの間には大きな溝があります。ハヤブサやフクロウなどの猛禽類に見つからないように、地面の下にねずみ達が移動で使うトンネルを地元ねずみたちは掘っています。そして、毎週日曜日には、皆で集まってトンネル清掃活動をしています。トンネルの中に溜まった落ち葉や小石を取り除いて、朽ちた落ち葉で滑ったり、小石につまづいたりすることがないよう、トンネルの中をきれいに掃除するのです。
 移住ねずみ達もこのトンネルを使うようになったのですが、毎週日曜日のトンネル清掃活動には我関せずといった風情で参加をしません。地元ねずみ達は、最初は優しく、移住ねずみ達に声を掛けました。「皆さんも清掃活動に参加して下さいね」と。しかし、掃除をするという習慣のない移住ねずみたちは、なかなか参加しませんでした。すると、段々と地元ねずみ達の語気も強まります。それでも、移住ねずみ達は掃除に参加しません。そして、とうとう、トンネルの出入り口に小さな立て看板が立ちました。そこには、真っ赤な文字でこう書かれていました。「清掃活動に参加していないねずみの方はトンネルの使用をお控えください」これを見た移住ねずみ達は猛反発。そういうことなら、自分たちで新しくトンネルを作ろうと言い出します。それから、地元ねずみと移住ねずみは、年がら年中、小さな言い争いをし続けています。
 さて、人の家の中に住むねずみの話です。人の家に住むねずみは、昔からおりましたので、細かい取決めが定まっております。生業は、
柱に彫刻をする芸術家か、人の隙をついて食べ物を集める盗人の二つしかございません。また、生業を働く人の家は、ねずみの一家ごとに一軒と決まっております。引越しをするときは、引越し先の先住ねずみとよくよく話し合いをするか、ねずみのいない家を探すかのどちらかをします。