すずり2途中から島の話

さだのりおにいちゃんと自転車でボートハウスに向かいます。シャーシャーと軽快な音を立てて進んでいくさだのりお兄ちゃんの後ろを、ゴロゴロゴロと大きな音を立ててすずりがついて行きます。クジラ公園につきました。クジラ公園は大きな二枚貝を開いて地面にさしたような形の傾斜のついた高い壁の間が砂場になっています。砂場で大きな山を作ろうとしたすずりですが、お兄ちゃんは壁の外側へ向かって走っていきます。壁の外側には、大小さまざまな大きさの石がばらばらにはめ込んであり、ウォールクライミングのように、それらを手掛かり、足掛かりにして壁をよじ登ることができます。さだのりおにいちゃんにとってはなんでもないようで、一番高いところへ向かってするすると登っていきます。すずりは、一番低いところをよじ登ります。一番低いことろへよじ登ると、高いところにいるお兄ちゃんへむかって四つん這いで登っていきます。島の話に変わります。「ありゃりゃ、二つ目だわ。」取り上げたばかりの赤子を産湯につけながら、産婆がいいました。「え?」後産を終え、ぐったりと横たわっていた母親が聞き返しました。母親の面倒を見ていたもう一人の青いほっかむりをした産婆がそばへ寄って、産湯につかる赤子をのぞき込みました。「あー、二つ目だわ。」という言葉を聞き、母親は仰向けになって顔を両手で覆います。両掌から嗚咽が聞こえ始めると、青い衣の産婆は静かに戸を開けて部屋を出ていきました。産湯を終えた赤子を真白の布で包み、母親の傍に置きました。「短い間でも、抱いておやりよ。」そう言われた母親は、体ごと赤子のほうを向き、子どもの頬を撫でました。何かを言おうと言葉を探しているようでしたけれど、見つからなかったのでしょう。黙って赤子を撫で続けました。頬から、胸、腹、小さな足をさすります。母親のそばにいた産婆は、黙って背を向けると片づけ物を始めました。その内、母親の目から涙がぽろぽろと零れました。「どうしてかねぇ」母親は小さく呟きながら、赤子の全身をさすり続けました。