【ソウサクノート】

男が見た夢_11

鬼が絶命したことを見届けるまで、男は弓を鬼に向けて構えていた。息が絶えたことを確信すると、二十歩ほど後ろに下がり木を見上げて何事か言い始めていた。すると、木の上からひょろっと背の高い男が降りできた。降りて来た男は、弓を持った男に話しかける…

末っ子ねずみ、末吉の話 2

とある田舎に農家を営む家族の平屋の一軒家があり、そこには、ねずみの一家が暮らしておりました。一家といいましても、お父さんねずみはあまり家に居ませんでした。お父さんねずみには放浪癖があり「山が俺を呼んでいる」と言って旅に出たり、「海が俺のた…

箱入り娘_投稿用

山間にある小さな町には、広い田畑の中に古い家屋がぽつりぽつりと建っている。この町に、新しい家が建ち、小さな子どもを連れた一家が都会から越してきた。真新しい家の屋根は空よりも濃い青で、その家には小さい庭があった。庭で一番日当たりのよい場所に…

男の見た夢_7

常緑樹の林の作る涼やかな影に身を任せ、体の隅々まで水が行き届く心地よさに、作造は酔っていた。そのせいで、彼に近づいて来る気配に気づくのが一寸遅れた。気配に気づき振り返った時に目が合った。気配の正体は鬼だった。作造は、清水を汲みに来た鬼に出…

男の見た夢_6

「女の体にして、向こうの島に流してしまうのはどうでしょう。女の身になり、その苦労を負うのは、この者にはちょうど良い裁きではありませんか。」やや興奮しているのか、女の声は先ほどより高い様に聞こえた。「ほうほう。」「うむ、それは前例がないな。…

男の見た夢_5

酒をたらふく呑まされた作造は、浅い眠りの中にいた。彼は大海原の中に、一人小舟で放り出されたはずである。しかし、彼を取り巻く様に、四方八方から声聞こえた。「なんたる阿保だ。」「確かに阿保だな。どうしようもないな。」「だから言っただろう、こい…

男の見た夢_4

首尾よく作造を排した佐吉。早速次の日の朝早くまだ暗い内から、灯をもって例の滝へ出かけた。逸る気持ちを押えきれない佐吉は、前を向いて走る様に沢に沿って山を登っていく。佐吉の持っていた灯が、蛍のように左右に揺れた。灯の日が滝の傍で自然と消えた…

男の見た夢_3

どうしても黄金の石が欲しくなった佐吉は、三日三晩考え続けた末、ある噂を流し始めた。古戦場でかっぱらいをいている作造は、他人様の古女房もかっぱらうようになった、と。町の古道具屋の斜向かいにある薬問屋があり、ここの主人は行商のため家をよく空け…

男の見た夢_2

作造はまっすぐに滝壺の方へ潜っていった。夢の中で石仏が消えていった辺りには石がゴロゴロと転がっていた。近づいていくと、無論そこには石仏はなく、鈍く光る石があった。その石を一つ拾うと作造は水面に浮上した。水から顔を出し、石を見るとその石は太…

男の見た夢_1

ある晩、作造は夢を見た。夢の中で作造は山中を歩いていた。目の前には石仏が浮かんでいる。それは、田畑へ向かう途中の道にいらっしゃる石仏で、作造は何んとなしに、願をかけることもなく、「有難や有難や」と朝夕手を合わせていた。ふわふわと風にのり漂…

ひとみなかみのしゅしょく_【メモ3】

年老いた巫女が一日の大半を礼拝堂の窓辺で過ごした。ゆったりとした椅子が窓辺に置いてある。窓はいつも小さく開かれており、絶えず潮風が部屋の中に入ってくる。そこで年老いた巫女は、海をじっと見つめて過ごしている。 夏至が近づき、日の光が強くなって…

ひとみなかみのしゅしょく_【メモ】

【あらすじ】 島全体での人口が100人である。一人子どもが生まれ101人になると、1か月以内に1人天に召される。近海を修める男神が争うごとが起きない様にそのような呪いを島にかけた。呪いは定期的にかけ直す必要がある。しかし男神は、女神たちと遊んでいる…

お月さま旅にでる_【完成】

夜、月は沢山の星々に囲まれて、楽しく過ごしています。星々は噂話が大好きで、毎夜、月に話して聞かせます。近頃はベガとデネブの仲が良いとか、そのためアルタイルは機嫌が悪いとか。月は気に入りの椅子に座り、延々と続く星々の話に耳を傾けます。こうし…

錦太郎の話_1【下書き】

錦太郎は生まれながらの苦労人である。両親は次男である彼に多大な期待を寄せていた。そんな両親の熱視線は日々錦太郎に注がれている。彼はその視線をかいくぐり、毎日のようにガールハントのため街へ出て行く。毎日のように行われているこの狩りは、面子が…

渦の中_8【下書き】

足裏からは地面に着いた感覚が、尻や背中からは座席に着いた感覚が失われた。目を閉じたままだったが、真っ暗な中にいるようだろうことは推測できた。尚の事、恐怖心が増す。「浮いてる?僕は浮いてるのか?」自問自答を繰り返しはしたが、確かめるために目…

渦の中_4【下書き】

スクリーンにはカエルを飲み込んだ渦だけが残った。僕は呆然として、しばらく渦を巻いているスクリーンを見つめていた。すべての画像を取り込んだスクリーンは極彩色のマブール模様だ。 すると、渦が反対周りを始めた。目の錯角が、中心に向かっていた渦が、…

渦の中_3【下書き】

この映画は外したかな。登場人物の誰にも感情移入できずにいた僕は心の中で舌打ちした。インタビュアーの準備不足とバレリーナの協調性の無さが奏でる音を、僕は不協和音と受け取ったのだ。これが面白いと感じる人はいるのかね、と心の中で毒づきながら、途…

渦の中_2【下書き】

この少女が視界の隅に入った瞬間、僕は彼女を最上級の危険人物と判定した。女子高生は生物だ、大抵の暴言はなぜか許容される。そして、彼女たちは自分たちのそういった性質を熟知している。静かに映画に没頭したいと思う僕にとっては、危険きまわりない生き…

渦の中_1【下書き】

街の人口が百万人を超えると、コアな客層だけを相手に商売ができるらしい。僕が住む街にもそういった類の店がいくつかある。昔のヒッピーみたいな柄の服だけを置いている洋服屋、ファイヤーキングのようなビンテージものだけの食器屋。僕はこういう場所にい…

雲が湧く 海の上から 空の中から雲が湧く ぷかぷか ふわふわ雲が湧く不安の雲は ザーザー 雨を降らす慈愛の雲は しとしと 雨を降らすお天気雲は ぽとぽと 雨を降らす喜びの雲は しとしと 雨を降らす心の大地に 雲は 雨を降らす雨を浴びて心の大地に 芽が 生…

とある海に貼り付けられた女神の独白

女神はある男の祖父に一目ぼれをした。(その人は男の祖父に当たる)三線を爪弾きながら謡う島唄が絶品で、女神はその声の虜になった。 惚れて、惚れて、惚れぬいた女神は、その島の海に長居をしてしまった。女神が長居をすると、海底の岩石は隆起し、そこに…

だいじだよ

だいじ だいじだよだいじ だからたくさん たべてたくさん わらってたくさん ないてたくさん ねむってたくさん おはなししあっておおきくなってねおぼえててねだいじ だいじだよ

灯の街灯 雨上がりの茜空に真白の月が昇る西の空に広がる黄金色の闇 厚い雲に隠され夕日は届かない取り残された水溜り その静かな水面を踏むつま先から伝わる波紋 囁くように水音が響く静かだった水面は乱れ 水中では砂粒が浮かんでは沈む東の空が紺色に染ま…

手_2

男とこの良妻との間には一人娘がいた。娘は口数こそ少ないものの、男や妻の仕事ををよく手伝った。さらにこの娘「娘の姿を見た鷺が、その麗しさに目を眩ませて、田んぼの中に落ちてしもうた」と村人の間でまことしやかに噂するほどの美人であった。よく働く…

手_1

村の外れ、小高い山の麓に男の家はあった。男は祖父の代からの小作農で裕福な暮らしとは無縁だった。けれど、男には宝物があったので、貧しい暮らしが苦ではなかった。 男の宝物は妻と一人娘であった。周囲に勧められるまま一度も会わずに迎えた妻は、大層よ…

急いでも間に合わないこともあるが、急がない訳にはいかない。_1

急がなきゃ!やっと気づいたの!これをあの人に届けなきゃ!「もっと仲良くしておけばよかった…」そんな後悔は、今は脇に寄せて!あの電車よりも早く、早く…!(注)A45枚にわたり、意味不明なラクガキと一言が書いてあった。どんな物語を考えていたのか自分…

吟じます_4

キミは黄色く丸い灯となって ゆるゆると天に昇っていく地上に根を張るボクは キミの姿を見上げるしかできないゆっくりと時間をかけて キミは天頂に辿り着くキミの姿に向かって ボクは枝を伸ばそうかと思案してどうにもならないと 自嘲した後 キミの美しさを…

吟じます_2

ボクにとってキミは月のような存在だった夜になりさえすれば 見上げさえすれば いつもそこにいた小さな違和感も 些細な嘘も 見ないふり 気付かないそうやって 目を背け続けてボクは 自分の所在を見失ったキミはキミの所在を見失うことなく 過ごせていただろ…

吟じます_1

日々の小さな違和感が降り積もっていく ボクとキミとの歩く道はどんなに腕を伸ばしても 届かないほどに離れてしまった愛していると囁き合い 互いに背を向けて眠る日々の小さな嘘が降り積もっていく ボクとキミとが見る世界はどんなに視界を広げても 重ならな…

伯父へ嫁ぐ

ある日、目が覚めたら由(ゆえ)少年は少女へと変じていた。それを気味悪く思った親戚は、山の奥の奥に住んでいる変わり者に嫁がせることにした。少年だった少女は、ひっそりと伯父に嫁いだ。伯父は、祖母が嫁いでくる前に産み、実家に置いてきた子どもだっ…