向こう岸

「向こう岸へ行きなさい」
ある日、じいさんが俺に言った。

向こう岸に着くまでに体が変じる。
両親を早くに亡くし、片目となった俺をじいさんは気にかけていた。
「向こう岸に着けば、体が変じる」
「両目となるやもしれない」
「鳥や石になって帰ってくるかもしれないだろう」
俺の言葉をじいさんは受け入れない。
「それでも、向こう岸にいんだ」
「裁きの霧には、女神の慈悲がある。」
「真面目に暮らしてきたお前を、鳥や石になどするものか」

片目となった俺は、近くのものの様子がよく分からない。
視野も狭いので、よく人にぶつかる。
ここで、罪を犯したもの、皆と同じように働けないないものは、例外なく向こう岸に送られる。放っておいても、じいさんがいなくなり、庇うものがなくなれば、俺は向こう岸に送られるだろう。
じいさんはもう一度、言った。
「雪緒、向こう岸に行きなさい」