渦の中_6【下書き】

 あれ、この子僕の前の席に座ってなかったか、少女の笑い声に正気を取り戻してきた僕は困惑し始めた。僕の困っている様子が面白いようで、少女はニタニタと笑っている。少女の様子にますます僕の正気は戻った。後ろを向くために曲げていた首を戻して前をみた。僕の二つ前方、一つ右の席に少女の明るい後頭部が見えた。僕はまたも混乱し始めた。
 そんな僕の視界に極彩色のスクリーンが飛び込んできた。スクリーンの中ではミモザ模様の壁にピンクと水色のソファーが置かれている部屋でインタビューが行われている。話を聞かれているのは、水色のソファーに座り、尾びれにトゥシューズを履いた金魚のバレリーナで、ピンクのソファーに座り、メガネをかけたカエルがインタビュアーだった。金魚は、赤、青、黄色のマーブル模様のシェイクが入ったグラスを片手に、にこやかにインタビューを受けている。大事な話を聞き漏らすまいと、カエルはせっせとメモを取りながら思慮深い様子で、質問を繰り出している。
 これは夢だ、きっと夢だ、つまらない映画を見ている最中で眠ってしまったのだ、僕は心の中でそう念じた。僕の目の前の席にいつの間にか移動していた少女が、振り向いて言った。「夢だったらよかったね。でもこれは夢ではないよ。」「これが夢でなく現実だっていうのかい。だったら、何かい、超常現象とか魔法とかそういう類のものだっていうのかい。」僕は少しばかり怒りを感じ語気を強めて言った。少女はまた、ニタニタと笑っている。