男の見た夢_5

 酒をたらふく呑まされた作造は、浅い眠りの中にいた。彼は大海原の中に、一人小舟で放り出されたはずである。しかし、彼を取り巻く様に、四方八方から声聞こえた。
「なんたる阿保だ。」
「確かに阿保だな。どうしようもないな。」
「だから言っただろう、こいつは大層な阿保だと。」
「いえいえ、この者は、だただた正直なだけなのです。」
「そうさな、生まれさえ良ければ、もう少しましな選択をしただろうな。」
「氏より育ちか、わしはそれを信じられんよ。どんな所に生まれようと、ましに育つものは、ましな生き方をするよ。こやつは、ただ、そう生まれなかっただけだ。」
「いやいや生まれた家は、大切ですよ。人は広い世界を狭く切り取った、世間ってところで育ちますから。どう切り取られるかは、大切です。」
「いや、ワシの知る限り、どんな世間に生まれても、育つやつには、強い意思は必ず育つものだ。」
 年老いた三人の声だった。彼らの、氏より育ちという決着のつかない言い争いは延々と続いている。作造は聞くともなしに耳を傾けながら、この阿呆というのは俺の事ではなかろうか、とようやく疑い始めていた。
「ええい!じじぃども、終わったことをいつまで話している!」威勢のいい女の声が、老人たちの終わりのない論争に割って入った。
「今、我々が話し合うのは、この者の処遇ではないのか?」
「さもありなん。」「確かに、確かに。」作造は、老人たちが大人しく女に従う様を想像した。何とも可笑しな光景である。ぜひそれを見てみたいと目を開こうとしたが、目蓋は糊付けされたように固く閉じられており、開けなっかった。
「さて、どうするかの。」
「うむ、どうしようもない阿保なのだ。この者も腹は決まっているようだし、いつもの通りでよいのではないか。」
「そうかの。ワシには、腹が決まっているというよりは、決まってしまった流れに流されて来ただけに見えるな。」
「まあ、未遂とは言え、女絡みの罪だ。いつも通り、花にしてやるのがよかろうさ。」
「花ねぇ。花にするには艶っぽさが足りんようにワシには見えるのぅ。」
「そうか、では、蝶にでもするか。」
「蝶は、物を盗んだものが変わる姿であろう。決まりは決まりで守らねば。」
「そうか、では、石にしておくか。」
「石は、火をつけた者が変わる姿であろう。決まりは決まりで守らねば。」
「では、どうするのだ。」
老人三人は深々と溜息を吐き、しばらく押し黙っていた。面倒くさい、とその沈黙が雄弁に語っていた。
「お三方、私に妙案がございます。」女の声が言った。
「自分で自らの案を妙案などと言わぬ方がいいぞ。まあ、何だ、何を思いついたのだ。」