男の見た夢_4

 首尾よく作造を排した佐吉。早速次の日の朝早くまだ暗い内から、灯をもって例の滝へ出かけた。逸る気持ちを押えきれない佐吉は、前を向いて走る様に沢に沿って山を登っていく。佐吉の持っていた灯が、蛍のように左右に揺れた。灯の日が滝の傍で自然と消えた。東の空が白み始めたばかりで、まだ太陽は地平線の下にいた。灯が消えたせいで、山の奥にある滝の周りは真っ暗だった。
 黄金を手にすることばかり考えていた佐吉は、灯の火が自然と消えたこともさほど気にせず、一歩一歩確かめながら滝に近づいていく。崖の端に足が付いた。そこから二三歩下がった佐吉は、着物を脱ぎ、腕を回し潜る準備を始めた。そうして、三歩進んで滝壺の中へ飛び込んでいった。水は切る様に佐吉の肌を刺す。なんだか体も重い様に感じた。佐吉は、滝の落ちているに方へ進んでいく。そこには、石がゴロゴロと転がっているのが見えた。佐吉が急いで近づいていくと、鈍く光る石が山のようにあった。
 佐吉は、その石の中で大きめのものを一つ拾うと、水面に向かって浮上しようとした。けれど、思うように浮かぶことができなかった。泳ぎの得意でない佐吉は、何度も体を捻って、何とか水面に浮上しようと試みた。けれど、佐吉の体は何かに押えつけられているようで、浮かぶことができない。とうとう、佐吉は滝壺の中で大きく息を吐き出した。思わず水を飲み込んでしまう。「しまった」佐吉がそう思った瞬間、佐吉は彼を押えつけていたものと目が合った。古びた石仏が、じっと佐吉を見ていた。佐吉は苦しさのあまり両手を広げてもがいた。黄金の石は、もとのあった場所に沈んでいき、佐吉の身体は、それを追いかけるように一度沈んでいった後に、背中から水面に浮上した。
 佐吉が仕事場に現れないことに、番頭は怒り狂い、他の使用人たちに当たり散らしていた。店で使っている灯が一つないことに、使用人の一人が気づいた。作造を真似て、古戦場にでも通うようになったのではないかと、佐吉と最も仲の良い使用人が言った。ここ最近、佐吉は作蔵の後をよく付けていたのを見た、とその使用人は付け加えた。「本当にしょうもない奴だ」と番頭は吐き捨て、佐吉の分も、皆が倍働くようにと言い添えた。佐吉が一人がおらずとも、店は何事もなかったように回っていく。