急いでも間に合わないこともあるが、急がない訳にはいかない。_3

丸が連なってできた電車が走っている。
丸は淡色で柔らかいので、その列車は串団子のように見える。
先頭の丸は、ふうううっと蒸気を上げている。

丘の上の駅に立っているボクは、遠くに茂る森を見ていた。
じいいっと目を凝らして見つめていると、三角の若い葉の一枚一枚が見えるような気がしたからだ。

微かな揺れを感じ、足元をみた。線路脇に敷き詰められた白い石が揺れている。
列車が近づいて来、駅のホームに停車した。
ボクは、ずらっと並ぶ丸い団子のような車両を一つ一つ撫でながら、ホームの最後尾まで歩いた。
ホームに停まった車両は蒸気を上げつつ、出発の合図を待つ。
カマキリのように緑の車掌が言う。「芋虫列車、まもなく発車します」「お客さん乗るの、乗らないの」
「乗ります」ボクは、ホームのベンチに置きっぱなしにしていた旅行鞄を取り、黄色い丸に空いた青い扉から、柔らかな車両へと乗り込んだ。

気付けばボクは、走り去る団子についた小窓から、遠ざかるホームからを見つめていた。
「待っている訳ではないのです。」
「あいつが駆けて来るのを待っている訳ではなかったのです。」
独り言にように、空に浮かぶ雲に言い訳をした。

「そんなに仲良くはなかったのです。」
強がりを言わなければ、涙がでてきそうだった。