男の見た夢_2

 作造はまっすぐに滝壺の方へ潜っていった。夢の中で石仏が消えていった辺りには石がゴロゴロと転がっていた。近づいていくと、無論そこには石仏はなく、鈍く光る石があった。その石を一つ拾うと作造は水面に浮上した。水から顔を出し、石を見るとその石は太陽の光を受けて黄金色に輝いた。岸辺に這い上がると、作造は石を高々と掲げた。きらりと光った石。石の光を受けて、眩しそうに目を細めながら作造は思案した。
「仏様さりがとうございます。」というと手ぬぐいで体を拭って、粗末な着物を着、そそくさと山を下っていった。
 作造は、野良仕事の合間、小遣い稼ぎに古戦場へ行き目ぼしいものをかっぱらっては、街の古道具屋屋に売っていた。なので、この鈍く光る石の引き取り手に心当たりがあったのだ。この時期の野良仕事は多いが、日差しも強い。朝夕の野良仕事の合間には、日が西の空へ傾くまでたっぷりと休憩をする。朝の野良仕事を終えると、仕事仲間に「古戦場へ行く」と告げて、作造は一応古戦場を通ってから街の古道具屋へ向かった。
 石には作造が思っていた以上の値が付き、その金で作造は意中の娘へ紅花のついたかんざしを買って、贈った。金のないはずの作造が上等な品を贈って来たことを、娘は不信に思い両親に相談をした。気のいい両親は、また古戦場へ行き、そこで当たりを引いたか、貧しい暮らしを切り詰めたかしたのだろう、と好意的に返した。それでも、娘の不信は拭えなかったし、どちらにしても育ちのいい娘にとっては気持ちのいいお金ではなかった。そこで、娘は、店の番頭にも相談をした。番頭の返事も両親と似たり寄ったりだった。年長の三人にそう言われて、娘もしぶしぶ認めたようだった。それでも、気持ち悪がって、そのかんざしは、装飾品を閉まっている小さな漆の箱の一番奥にしまった。

 村の三男坊で、その店で丁稚から鍛えられた使用人の佐吉がこの話を聞いていた。この佐吉は金の匂いに対して、ひどく鼻が利く。上手い儲け話だったならば、自分も乗らねばと佐吉は思った。佐吉は、数日間、店の使い走りの合間に、作造の後を付け、どこへ行くか見張っていた。七日目の早朝、佐吉はとうとう、作造が滝壺へと潜っていき、その中から黄金の石を拾ってくる姿を見た。そうして、その黄金の石を古道具屋へ売りに行くところまで確かめた。
 番頭は、ここ数日の佐吉の仕事がおざなりなので、ひどく叱った。叱られながら佐吉は、金があったらこんな暮らしから逃げられる、と思った。そう思うと、作造の拾っていた黄金の石がますます欲しくなった。どうしても、欲しくなったのだ。