【ソウサクノート】

向こう岸

「向こう岸へ行きなさい」ある日、じいさんが俺に言った。向こう岸に着くまでに体が変じる。両親を早くに亡くし、片目となった俺をじいさんは気にかけていた。「向こう岸に着けば、体が変じる」「両目となるやもしれない」「鳥や石になって帰ってくるかもし…

対岸の島

対岸の島が霞んで見える。こちらから向こうの浜辺までは体力のある男ならば泳いで渡れるであろう距離である。けれども、それをするものはいない。東西に流れる強い潮のせいで、どんなに真っ直ぐに進もうとしても、あらぬ方へと流されていくからである。そん…

読めへんねんけども

虎杖(いたどり)たで科の多年生植物。茎は中空で約一・五メートルになる。若い茎は食用ともなり、すっぱい。夏、淡紅または白の小花を穂につける。根は漢方薬用。郁子(むべ)あけび科の常緑つる性植物。山野に生え、庭木にもする。五月ごろ、白色で紅紫色…

女神の気まぐれに、命を託す

世襲制の国で起きたクーデター。夜襲の隙をつき、王は幼い王子を連れて馬を走らせた。付き従うのは両手で足りる程までに減った従者たち。王子の命を長らえさせたいと、王は必至であった。父の懐に抱かれた少年は、馬上で父の羽織の裾を黙って握り占めていた…

高貴な生まれとはなんぞや

王は選ばれる、狩りがうまく、思考が明晰で、大らかな気性な男たちの中かから選ばれる。世襲制をとらないのは、最初の王に男児が生まれなかったからだ。最初の王は、国中の男子を王の屋敷に集めて、六芸を教え始めた。貴重な働き手である男児を独占する訳に…

舟を継ぐ

この島に生まれてしまったからには、漁師になるしかないのだ。男に生まれてしまったからには、漁師になるしかないのだ。誰もが皆、疑問を持つことなく、親の舟に乗り、漁を覚える。そして、いつしか年老いた両親の代わって舟を継ぎ、漁師になるのだ。

まる、さんかく、しかく三部作

まる、さんかく、しかく三部作タイトル覚書まる・ころころころさんかく・ぱらぱらぱらしかく・ぎゅうぎゅうぎゅう

独白

「どこにいたってあぶれる。」髪を伸ばしたままにした女は思った。揃えることのない前髪は、彼女の顔を覆うようにして垂さ下がっている。幕のような髪、その奥で彼女の目は真っ直ぐに前を見ている。寄せては返す波をじっと見つめ、口を開くことなく波音を聞…

みなおなじみちをゆく

紫雲の隙間に 薄紅が滲んで傍らの残り葉は 薄白を受ける土に支えられた子は 日を背に立ち上がり苔光る山門の向こうに 来し方の連なるのを見た道々茂る花の色は 父母(亡母)の情けであろうか風を与えられた子は 頭をもたげて目を開き草光る山道のそこここに 行…

子どもの目・設定

子どもは片目を手にもって生まれる。目は石化している。この石のような丸い目玉を他の人の体液と共に、子どもの眼窩に入れる両目が見えるようになるしかし、目を閉じている時や、目の持ち主の環状が高ぶっているときは、持ち主が見ている光景が、自信の見て…

すずり2途中から島の話

さだのりおにいちゃんと自転車でボートハウスに向かいます。シャーシャーと軽快な音を立てて進んでいくさだのりお兄ちゃんの後ろを、ゴロゴロゴロと大きな音を立ててすずりがついて行きます。クジラ公園につきました。クジラ公園は大きな二枚貝を開いて地面…

すずりは

春休み、すずりは退屈していました。すずりはまっすぐ商店街に住んでいて、お家は文房具屋さんです。文房具屋さんのお仕事は、おじいちゃんとお母さんがしていています。お父さんは町の会社に働きに行っています。すずりには、お姉ちゃんとお兄ちゃんがひと…

【ソウサクノート】すずり

すずりはお兄ちゃんと公園へ池にお菓子が落ちる池を見ると新月が映っている池の新月に落ちる新月の中から町を見下ろしているすずりを探すお兄ちゃんすずりは町を楽しく見学太陽が沈む町が暗くなるお兄ちゃんはすずりを呼ぶ呼ぶ声がすずりに届く帰りたくなる…

【ソウサクノート】?

だめだよ、そっちは布袋がいるから…! 白雪姫の話は現代劇でも面白いかもしれない

【ソウサクノート】海の話

世界の始まりはへび へびは卵を産む 孵化したものは神に 孵化しなかった卵は大地になった…蝶やカマキリ 男神 鳥 1000の意識を与えて幼女を神にする 1000以上の意識(人、獣、石、木、虫)の集合体が神 意識は統合しない、それぞれの思案・本能を眺めている …

【ソウサクノート】罪人を船にのせ

罪人には酒を呑ませろ 酒を呑ませろ 呑んだ罪人は寝てしまえ 寝てしまえ 昏倒の内に船を出せ 島流し 恥ずかしい出来事 悲しい思い出 全て波がさらう 酔って眠った人間は 小舟に乗せ 潮に合わせて縁を押す 長に指名された三人も 酒を呑んで酔うている くるぶ…

【ソウサクノート】俳句

グラス揺れ 触れて弾ける ソーダの泡冷えた円座と 細い空は 陰になり結葉に 隠れ泣く子と 手をつなぎご褒美に 一人ひと箱 苺買う白重 おろした日の 通学路色香湛うて 水仙は笑み白重 袖を通して 通学路麦茂る 畑の道を 歩む鳥色香湛う 余花と三十路の 盛りは…

【ソウサクノート】父への手紙

私は「お父さん」を諦めることが、長いことできませんでした。 それは、幼いころのお父さんがいた温かく細やかな記憶があるからです。 両親の商の商いが順調であった頃、週末に父は、私と母を連れて温泉へ出かけることがありました。三人で、父の車で出かけ…

【ソウサクノート】八分の一お父さん

ほんとうのお父さんだけでは、お父さん成分が足りないので、八分の一お父さんという荒業で心の中を収めてきました。祖父、伯父、先生といった心優しい憧れの年配の方々を、心の中で「八分の一お父さん」と勝手に呼んでいたのです。

【ソウサクノート】言の葉くんの独白

夢も現もあるものか。この世はすべてまやかしだ。今、ここにある命の他に、ほんとうなどありはしない。